伝える力 伝わる力

 タイトルは私が昨年、ある企業の研修会で講演を行ったときのタイトルで、それ以来、初年次教育で行っている教養セミナーという授業のテーマにしている。実はこのタイトルでグーグル検索をしているとおもしろいことに「伝える力」と「伝わる力」を同じように扱っていることが多いことに気づく。

 しかし、この二つの力は同じものではない。どうもコミュニケーション力というと、とかく、「明確に話す」「明確に書く」、「相手がわかるように伝える」ということばかりに主眼が置かれている気がする。したがって、「相手に伝えなきゃ!」「相手に伝わらなきゃ!」ということばかりが焦点になるのだが、これは本質的なことを見失っている。

 本来コミュニケーションは発信者と受信者の相互作用によって成立する行為である。いくら発信者が張り切ったところで、受信者にメッセージを受け取ろうという気がなければ、そもそもコミュニケーションは成り立たない。「伝える力」は発信者視点の力で、これについては多くの人がメッセージを出しているので、ここでは言わない。むしろ大切なのは「伝わる力」である。

 「伝わる力」とは発信者が提供する情報やメッセージをどれくらい受け取ることができるかという受信者視点の力である。漫然とメッセージを聞いていたのでは、情報量の数パーセントも受け取ることができない。「伝わる力」とは相手のメッセージに耳を傾け、言葉を自分なりに変換して、意味解釈を行う力であり、その記録をとる力である。だから、メモを取る力であり、ノートを作る力である。もっといえば、相手の難解なメッセージから自分なりに情報を取り出す力である。言い換えれば情報収集能力であり、情報集積能力である。受信者とは決して「受け身」なものではなく、積極的に、情報を抽出する作業が求められる。それこそが「伝わる力」なのだと考えている。

 収集した情報を自分なりに解釈して、再生産して発信する。その営みこそ、知識の伝達であり、ひいては文化的な蓄積になる。

 

こんな考えをなんとかまとめて書籍にできたらと、ふと考えている昨今である。