語彙の複雑さと構文の単純さ

 薬学部の授業に使っている小テストをひょんなことから、上司の目に触れることとなり、語彙の複雑さに比べて構文が簡単なのはどうしてなのかという質問を受けた。実は、自然科学の英語を見てみると、まさにそれで、特に、論文などを見てみると名詞句の複雑な構成に比べて、構文自体は5文型の基礎的なものが多い。

 薬学部の学生が将来目にする英語はそういう英語であり、情報を取り出すことが主務になるので、そういう練習をさせていますと報告したら、ご理解をいただいた。よく専門的な英語は専門用語が多いから、という声を聞く。確かに分野によって、特定の語彙の使い方はあるが、実は学問的な英語というのは共通していることがある。それは、名詞句の複雑さであり、構文の単純さである。学問的な英語、特に自然科学や、私の専門とする言語学では、情報の叙述が基礎となるので、仮定法などはお目にかかることはないし、倒置文などの修辞的なものも多くない。

 分野によって、目的によって、言語の表現形式は変わる。それはその目的ごとに伝達する意味が変わるからであり、その意味の複雑さによって表現形式の複雑さもかわる。その点、物語は記述、後悔、想定など様々な意味を展開するので、表現形式が時制でも、態でも豊富になる。語彙も学問的な複雑な物はそれほど現れないが、感情や描写について細かい意味の違いが現れる使い分けが出てくる。

 私が専門としている選択体系機能言語学ではそのような社会と言語の関係を明らかにしていくので、このような違いを意識するし、学部や学科によって授業展開を変えることができる。しかし、このような知識やノウハウを自分だけのものにとどめておくのではなく、広くどんな先生でも扱えるように周知していくのが今後の私の責務になるのだろうと思う。