力は知から

 毎週木曜日の1限は教養セミナーという授業を担当し、学生に「伝える力 伝わる力」というテーマでコミュニケーションの授業を行っている。このテーマは同じことのように思えるかもしれないが、「伝える」は他動詞、「伝わる」は自動詞だ。そこで、「伝える」は他者への伝達を意図し、「伝わる」は自分がどのように情報を受け取って、内部に取り込むかを主眼としている。

 コミュニケーションというと単に上手に話すことだと思われがちだが、それはコミュニケーションの目的や状況によって異なる。一方的に自分を語れば良いわけではない。また情報をいかにくみ取って、理解するかも大変に重要なコミュニケーション能力の一部だ。あるいはビジネスシーンでは話すことよりも文書化して、伝える力が重要であり、知識を取り込むためには書かれた文字からいかに理解度と想像力を働かせるかも大切である。

 情報と一口に言うが、情報を理解するためには様々な知識が必要となる。今読んでいる本によれば、デザイナーのJonathan Iveは図書館に足繁く通い様々な本を読んだらしい。キッチンや水回りの製品をデザインする際には、古代ギリシャ神話の本を読み、見ずに対する信仰という考え方に感動して、キッチンのシンクをデザインしたそうだ。製品のデザインに現れる哲学というものを考えるとき、「理系だから文系の知識は不要」とか「反対に文系だから理系の知識が不要」とはならないはずである。

 大学院時代に言語治療士になろうと思って、心理学やら脳科学の本を読み、知識を身につけたが、英語の教員となって、その知識は役立たないように思われた。ところが、言語の発達や、言語使用を個人のレベルで考えるとこのような知見が生きてくる。やはり知識は考えるための土台を作り出しているのだなと痛感したものだ。

 知識は「知っている」だけでは宝の持ち腐れだ。知識をどのように使って考えるか。問われるのはそこなのだと思う。

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